『みかんの気持ち』
 








 



この掲示板に2度ほど顔を出したバレバレ氏が2000年1月下旬忽然と姿を消し、もぬけの空となった同氏の部屋から、次のようなメモが発見されました。なかなか興味深いものなので、ここに掲載させていただきます。ある朝、なにやら胸騒ぎのする夢から覚めると、ベッドの中の自分が巨大な一個のばかでかいオレンジに変わってしまっているのに気づいた。そういえばその昔、巨大な毒虫に変身した輩の話を聞いたことがあるな、とは思ったものの、さて、ではナゼ自分がオレンジなのか、と、いわれるとなんの心当たりもない。強いていえば、昨晩みかんを5個ばかり食した所為かな、と思うばかりである。最近特に冷えている日本列島で、こともあろうに南国の果物、オレンジになるとは、と思いつつ、こうなったらもう、この寒い中寝床からはい出し、身支度をして、ぎゅうぎゅうの通勤電車に詰め込まれて職場に向かうのは不可能であろう、いや、それどころか、ひょっとしなくてももう一生働かなくて済むのではなかろうか、との考えに、ではもう一度、ぬくぬくとした布団の中で心地よい眠りに戻るのがこの場合、最善の策であろう、と思うほどの楽天家ぶりを発揮したが、それも、自分が、寝返りを打つのもままならない身であることに気づくまでであった。自分はここでただじっと腐ってゆくのを待つばかりなのか。今はまだ、柑橘類特有の芳香を放っているわが身であるが、それもやがて、得体のしれない悪臭に変わっていくことだろう。ごつごつはしているものの、厚くてツヤがあるこの皮もいずれしわしわに萎び、表面のあちこちを、白や緑のカビがわが物顔に被い始めるだろう。生きたまま腐ってゆく。そう考えると、これはなにか、悪い冗談にも思えてきた。人間だったころの自分は果たして、生きたまま腐ってはいなかったのか。この問いに、否といえるような人生は送ってこなかった。腐ってゆく。どっちにしろ。一個のオレンジが朽ち果てるまで、どれくらいかかるのだろう。ひと月くらいは、なんとか意識を保つことができるのだろうか。80年かけて、ゆっくりと達成されるプロセスがひと月かそこらに短縮されるだけではないか。ひとまず、眠りに戻ることにしよう。それから、ゆっくり考えよう。ゆっくり、だが、いったい何を考えることがあるのだろう。そういえば、ゆうべは眠りに落ちる前に、暖かい布団にもぐって眠れることが、いつになく幸せに感じられた。それだけのことで、胸の中が暖かくなったのを憶えている。それだけのことだ。



                                         
                                                               


                                                                               2000.1.19

                   


                    『ももりか/明日はどっちだ』へ







 

 







【解説】しょーもな(バレバレ)さんの作品です。何故か僕の心を捉えます。
最後の「それだけのことだ」というフレーズがいい。みかんの画像があった
んだけど、保存してなかった 。残念です。それゆえ、この文章のタイトルは
「みかんの気持ち」になりました。何かシニカルなみかんですけどね(爆)。

【捕足】 その後、心の師であるACTさんから「みかんの画像」が届いた。
とてもありがたく、感謝している。お陰でこの作品のインパクトが増して、
よりよく作者の気持ちを伝えられるようになりました。りかちゃんも本望だ
ろう(謎)。しかし、良く見たら「オレンジ」らしいが、まあ、僕の中では
みかんです。なんといっても、みかんです。それと2/21は僕の誕生日です。







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