ショートストーリー1
 



『精神加速剤1』






 少し未来の日本でのこと。
 脳科学の発達によって、ついに”頭の良くなる薬”が開
発された。
「これを飲むと『脳の代謝』が飛躍的に向上します。よう
するに、脳の処理速度を加速するので、一時間のテスト時
間も三時間ほどに延長したのと同じ効果が得られます」
 W大医学部教授にして、次期、伊集院財閥の後継者、伊
集院総一郎の家庭教師でもある、有村教授は自信満々で言
い放った。
「そうか、これを飲めば、脳が活性化されて頭が良くなる
という訳だね。これで合格間違いなしだな、有村」
 伊集院総一郎は喜びを隠せなかった。
「その通りです。おぼっちゃま。今までの成果を存分に発
揮すればおぼっちゃまも今度こそは、合格間違いなしです」
 有村教授も秀でた腹を誇らしげに突き出して、鷹揚に笑
った。

 そして、W大の合格発表があった。
「ぼっちゃま、どうでしたか?」
 有村教授は伊集院財閥、総一郎の自宅で報告を待ってい
た。
 彼は総一郎の家庭教師であることがばれて、三年前に試
験官のメンバーから外されていた。だから、試験結果につ
いてはまったく、知らないらしい。
「……だめだったよ。どうしてなんだ?」
 ベンツの後部座席から力ない声が聞こえて来た。
「何ですと!!おぼっちゃま……」
 有村教授は絶句した。
 総一郎は彼を置いて、無言で自分の部屋へと帰って行っ
た。
 長年、仕えている執事の常国が有村教授を慰めた。
「……あなたのせいではありません。どうか力を落とさな
いでくださいまし」
 有村教授はそれを聞いて、少しばかり元気づけられた。
「そうですね。私のせいじゃありませんよねえ」
 常国はなぜか泣きながら、有村教授の肩を抱いた。
 別に変な趣味は二人ともなかった。
 ふたりの胸に同じ想いが去来していたからだ。
(……なぜ、おぼっちゃまは、あんなに馬鹿なんだろう)
 そう、いくら精神を加速しても、もともとの頭が悪すぎ
ては合格するはずがない。
 二人はついに抱き合って、泣きに泣いた。
 すでに受験失敗は5年目に突入した。
 有村教授の苦闘は続く。





   <つづく>

   1999.4.16

   <コメント>
   くだらないと思っても、掲示板に感想など書き込ん
   でください。有村教授に励ましのメールを書いてく
   ださい。

   とか書いてますが、本当に”くだらない”ので読ん
   だことは”記憶から抹消”してください。
   あるいは、秘密のページにでも隠しますか?
   では、また。










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