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▼ 第12回投稿作品 ▼


12/09

遅刻した。
フレックスと勘違いするなと怒られたが
下手に言い訳しても遅刻の事実は過去に起きた現実なので
素直に頭を下げて同僚隣の平沢氏にガス抜きの様に
釈明行為するも信じて貰えず

向かい風が俺に厳しかった。
通常なら一歩を約90cmの時速4・5キロ程度で順調に
やや早足で歩くのが基調な俺が、強い昼の風に押されて
思う様に道を進めなかったのさ。
道路を越える為の陸橋へ進む、斜面を歩きながら
顔は金剛力王の様に目を見開いて力強く前進していた。
突如視界を覆う一面の黒にまとわりつかれ詰まる呼吸、
げえ、と口の中まで進入してきたそれを引き剥すと
いわゆるウィッグだった。これが飛んできたのか?
すると前方から激しく風に乱れた簾頭髪を振りかかざして
悲壮な面持ちの背広の男が叫びながら走ってくる
「まってくれえええっええええ!!」
一目で因果関係が成立したものの俺は追い風に押されて
走っているのか走らされているのか区別も困難な
その男の余りの悲壮と狂乱を表情した顔をとても
恐く思えてしまい、ほぼ無意識に手にしていたウィッグを
頭上を駆け抜ける風に預ける様に放り投げてしまった
「まってくれええっ…ええ!?ええええ」
ははあその顔はなんて事しやがるこの青年と云う
驚愕と避難を表情したのだろう。しかし無情とはまさに
風に踊り何か別種の生物のごとく空を去るウィッグさ。
俺は薄情で惰情だったのさ。のさ

「まってくれえええっえええええ!!」
嗚呼…走るがいい、今なら空も飛べるかと錯覚せん程に
貴方は貴方の人生にあって数少ないと予想させる
本当の追い風にのって何処へでも飛ぶがいい。
俺には俺の道がある、それを間違える事無く確かに
足の痛みを、そこから伝わる心での感触を食らいながら
何処へとでも行くだろう。今は会社だ、
正確には京葉線の千葉県寄りの駅だった。そして
貴方の追い風は皮肉と俺にとっての向かい風だ

なんて事があったと話しても誰も信じたりしないだろう。
そりゃ、私だって信じていないからね








                  1999.12.18








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