『瞬』について 北風寛樹 この作品は、千佳子と呼ばれる少女と瞬という存在との交流を描きながら、今の社会の矛盾や問題点を浮き彫りにし、家族とは何か、幸せとは何かを問いかけていくような物語です。 そして、読んだ後には思わず涙がこぼれてしまう、せつなくて素敵な物語でもあります。 物語は、まず、千佳子の母親の真弓の実家である広島で、父達也と祖父と祖母とともに暮らす「楽園」のような生活から始まります。 幸せな「楽園」にくらしていた千佳子は、父達也の東京本社への転勤により、小田原の父の実家の近くの小学校に転校することになります。 そこで、彼女を待ち受けていたのは不慣れな転校生としての生活でした…。 そんな物語の始まりですが、最初の1〜3章までの出だしは少しだるい感じがします。 第4章での野球のシーンあたりから、生き生きとしたリアリティのある描写により、俄然面白くなりはじめます。 瞬と交流するシーン、ゲームのシーン、ラジコンのシーンなど、しっかりとした丁寧な描写に支えられつつ、生命を吹き込まれた登場人物たちの動きは物語にリズムを与えています。 構成としては、最初の3章分については後のシーンに組み込んでしまっても良かったかもしれません。 例えば、つらい時に「広島はよかったという」回想シーンにしてもよかった。 それから、最初の3章では改行、会話のシーンが少なく、もう少し改行を多くして、説明を会話の中に入れ込んでしまう事によりより読みやすくなると思いました。 第4章か、印象的なシーンを冒頭にして書けば、今より読みやすくなると思います。 その後の物語が面白いだけに何かもったいない感じがしました。 もう少し詳しく解説したかったのですが、ネタバレになりますのでこの辺でやめときます。 結論としては、少年、少女、母親、父親、家族や学校や孤独な男の問題を描いた、重厚な構成と生きた登場人物の動きが心地よい名作でした。 最後は、胸に込み上げる想いと瞬の存在が読者の心に響き何ともいえないぬくもりを残すでしょう。 それでは、また。 2001.1.7 |