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▼ 第10回投稿作品 ▼



sakazaki先生
              haruoです

ちょっとした家での会話がもとで、また、短編が出来てしまいました。
投稿コーナーへ貼り付けて頂ければ幸いです。
いつもご迷惑を掛けっぱなしで、申し分けありません。
本当に暇な時で結構ですので、よろしかったらお願いいたします。



「忙しい女」
 
 Yは大変忙しい女だった、何事もきっちりしないと気が済まない自分の性格のせい
も有って、毎日をただ忙しく生きていた。
 子供はいなかったが、結婚していて家事と自分の仕事をこなし、ボランティアも二
つやっていた。
そんな彼女の夫の方は、実にマイペースであった。Yの口癖は「ああ、体が三つ欲し
い!」だった。
それをいつも聞かされていた夫は、その願を叶えてやろうと思った。これがよくある
間違いの始まりでで、男はいつも女の言葉を正直に捕らえてしまうものである。
夫は生物学の研究室で働く科学者であって、その分野では多くの実績を持っていた。
夫はYの体細胞から遺伝子情報を取り出し、完璧なYの体のコピーを二つ作った、夫
はYを驚かそうと、クリスマスにそれを贈る事にした。
クリスマスの朝、Yが目覚めて、着替えようとクローゼットを開けると、Yのコピー
はそこにあった、Yは驚いて、叫び声を上げた、しかしそれは、喜びの叫びではな
く、恐怖の叫びであった事は普通の人なら想像が付くはずである。「ギヤーーーー!
!」と言う声は、防音窓を突き抜けて3軒先まで聞こえた。
へたり込んで、口をぱくぱくしているYに夫は「どうだ、驚いたかい?」と声を掛け
た。
「な、な、ま、な、なんなの!?これは?」
「クリスマスプレゼントさ、いつも欲しがっていただろ。」
「こ、こ、こ、か、こ、こんな変な人形なんか欲しくないわよ!!」
「人形じゃないよ、これは、君の、か、ら、だ、」
「わたしの、カ、ラ、ダ、?」
「いつも言ってたじゃないか、体が三つ欲しいって・・」
「でも、二つじゃない。」
「一つは、もう持ってるから、合計三つ。」
「そ、そうね、計算は合ってるわ、…でも、どうやって使うの」
「そこにヘルメットみたいなのが、二つあるだろ、その赤い方を自分の頭にかぶっ
て、青い方をもう一つの体にかぶせる、そして、耳の横のスイッチを押す。ま、一回
やってみたらわかるよ、簡単だから。」
「簡単そうだけど、その後どうなるの?」
「どうなるのって、君の思考がそちら、・・わかりにくいから、Y2ってつけたけ
ど、Y2の体の脳細胞に移動するんだ。」
「でも、はじめの私の体はどうなるの?」
「思考が移動したから、肉体だけになるんだよ。」
「でも、それってどんな意味があるの、どっちにしても、一度に一つの体しか使えな
いじゃないの。」
「でも、体は三つになったよ。嬉しくない?」
「うーーん、嬉しいような・・そうでもないような・・」
有能な科学者に限って、常識的な考えは出来ないものである。Yの夫はその典型だっ
た、ありがた迷惑、と言う言葉は知らなかった。本当にYが「忙しい」と思うように
なったのは、これが始まりだった。
体が三つになったYは、始めは、一つが疲れたら、Y2、Y3を使って、自分の体を
休ませれば良いと思っていた、「そうすれば、寝なくてもいいか?それなら、時間が
出来る!」と考えた。「ま、使い方で、うまくすれば、少しは楽になるかな。」と、
思ってしまった。しかし・・
人間疲れるのは体だけではない事に、Yが気付くのに2日とかからなかった。
Yは、すぐに、寝ないで働く事に精神が着いていけなくなってしまった、結局睡眠は
必要であった、おまけに、Y2、Y3も生身の肉体である事には間違いない、これが
ロボットだったらもっと楽だったかもしれないが、クローンなので、生きているとい
う事が、厄介だった、食べさせないと、体がおかしくなるし、トイレも行かないとい
けない、お化粧は、家用と外出用に分けたので手を抜けたが、それでも、運動不足だ
と太ってしまったり、定期的に水を飲まないといけないし、Y2,Y3に要するメン
テナンス時間は大変なものであった、朝のトイレや食事は凄まじいものであった、特
に便秘の時なんかは大変だった、一つをトイレに座らせたまま、他の一つに入って、
朝ご飯の支度をするとか、Yの生活は、Y自身も含めて、Y2、Y3の世話にかか
りっきりになってしまった、大きな子供が二人も急に増えてしまった状態である。そ
して始末が悪いのは、それが全部自分である事だった。誰にも預けられないし、ほっ
ておく事も出来ない。
たまりかねて、Yは夫に「なんとかしてーーー!!!!」と叫んだ、こんな時科学者
は平然としたものだ、「なんとかして、って言っても、どうするの?」
「もう、私の体は元に一つで言いから、Y2,Y3は処分して!」
「処分って言っても・・それは出来ないよ・・」
「出来ないって!!どうして!!!!あなたが造ったんでしょ!!!!」
「確かに僕が造ったんだけど、処分するって事は、殺すって事だよね?」
「殺す!!・・そ、そうなるの」
「クローンだって生きてるんだから、殺すってことになれば殺人だよ」
「で、でも、あなたが造ったんでしょ・・」
「確かに造ったのは僕だけど、今は、君のものだよ、いや君自身だ。僕が君を殺すな
んて出来ないよ。」
「じゃ、私に、自分で殺せって言うの!!!」
「こ、声が大きいよ、近所の人が聞いて警察に電話したらどうするんだ。」
「こんなこと、小声じゃ話せないいわよ!!」
「君が自分でやれば、罪にはならないだろ、」
「自分でやれば、自殺ってことになるの??」
「たぶん、でも、死んでないじゃない、第一、死体が二つあって、そっくりの私がい
て、自殺しましたって、言って誰が信じてくれるの!!その前に自分が生きているの
に、自殺しましたって言えないじゃないの!」
「そ、そうだな、それじゃ自殺未遂かな?でも、未遂で死体が二つは多すぎるか?」
「一つでもだめよ!」
「困ったな、喜んでくれると思ったのに・・」
「本当に困ったのは、あなたのその気楽さよ、このままじゃ私、自分の体の世話だけ
で一生が終わってしまうのよ。」
「みんなそうだよ・・」
「状況が違いすぎる!!」
「どなるなよ・・なにか良い方法考えるから?」
「思い付いた?」
「そんなに早く、思い付かないよ・・」
「で、それはそうとして、はじめから不思議に思ってたんだけど、どうやってY2Y
3を作ったの。」
「それは、最初に言ったように、君の遺伝子をコピーして、細胞を増殖させて・・だ
よ」
「それは分かるけど、それなら、どうして赤ちゃんじゃないの?」
「それは簡単さ、成長を早める触媒を使って短期間で君の年齢にしたんだよ、少し若
くは作ったけど。」
「それだ!!」
「なに?」
「その触媒を、今のY2Y3に使ったらどうなる!!」
「あ、そうか、そのまま急速に老化して自然死か!そうすれば、何とか世間をごまか
せるかも知れない、双子のおばあちゃんが死んだって事で、そうだそうしよう!」
さっそく夫は、実験室に出かけ触媒を持って帰り、Y2Y3に注入した。その結果、
急速にY2Y3は老化を始めた。
「自分の老化を見るのって、気分悪いけど仕方ないわね。」
「そうだね、仕方ないよな、自信作だったけど。今度は僕用に若いギャルの体を作ろ
うかな・・」
「え!なにか言った!!」
「い、い、い、いえ、別に・・」
「ちょっと待ってよ、ないかおかしいわよ、Y2とY3??」
「あ、やっぱり・」
「やっぱりなによ?」
「いぇ、ちょっと少ないかなって思ってたんだけど・・」
「なにが?」
「触媒だよ、触媒を作った時には、こんな事で使うとは思わなかったので、そんなに
たくさんは作ってないのさ、だから、少し足りないかなって思いながら注入したんだ
けど、やっぱり足りなかったみたい。」
「足りなかったら、もっと作ればいいじゃないの?」
「それが、その、今回は結構偶然が重なって、成功したみたいなところが有って、同
じ物が作れるかどうか??」
「そ、そそ、それじゃ、Y2Y3は、中途半端におばあちゃんになっただけ!!」
「そういう事になるかな・・」
「間違いなくなるわよ!!この二人のおばあちゃんは誰が世話するの!!」
「それは、君だから・・君が・・」
「冗談じゃないわよ!!私の家に金さん銀さんはいらないわよ!!」
「金さん銀さんじゃなくて、Yさんの分身だから、XさんZさんかな?」
「なにのんきなこといってるの!!はやく、もう一度触媒を作りなさいよ!!!」
このようなわけで、しばらくの間、Yさんは、仕事と家事、二つのボランティアに、
二人のおばあちゃんの世話、以前にも増して忙しい生活を送るようになった、しか
し、もう口癖の「私は、体が三つ欲しい」とは言わなくなった。



                     
                                  


                               1999.11.30










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