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▼ 第19回投稿作品 ▼



(前書き)
 この文章は、あくまでもフィクションです。
 これから先の文章は、読者に精神的なダメージを与える恐れがあります。
自覚及び他者の進言を問わず、心の弱い方や情緒不安定な方は、
これより先を読まない事をお勧めします。
もしお読みになった後で読者に何らかの影響がありましても、
作者及び掲載者他、この文章に関わる全員に責任は無い事をご了承下さい。







アベル症候群



 チャンネルを回すと、毎週見ている『どっちの料理ショー』が佳境に及んでいた。
画面下にいちいち表示される書き文字は鬱陶しいと思いつつも、
四散したボクの記憶回路にとっては、参加者の精神的動向を見失わないための…
ある種、『補助』的な役割として必要であったのかもしれない。
 ところでボクは、三宅○二が好きである。
劇団をしている者が持つ、空気を把握する能力に優れているからだ。
そのせいか、ボクはいつも三宅祐二を応援する。
絢爛な関口側と比べた判官びいきもあったのかもしれない。
しかし物事の真意という物は、いつも各個人の心の中だけにある。
残念な事に、この言葉は説明になっていないのだろうが。




 レンタルビデオ店の店員として、店の客に嫌な印象を与えるのは失格だ。
ボクは以前、人生の先輩から「金を貰う以上はプロとしての自覚を持て」と教わった事がある。
何故かその言葉はボクの脳の奥に今日まで強く留まり続け、今この時間でさえ、
その言葉を自分のモラルとして…守る守らないを抜きにして…拭えずにいた。
「あ、すみません!そのお手持ちの作品ですが、ついさっき別のお客様に
お出ししてしまったんですよ〜!誠に申し訳ありません!」
 …深深と頭を下げるボクに、その初老の客は「なんだよそれ?」と怒りをあらわにしていた。
まぁ仕方もない。ボクが客でも憤るだろう。
 重ねて謝るボクと、グチグチと文句をたれながす客。
無口のまま出ていったその客は、別の日、店長に「あの店員はろくに謝りもしなかった。態度が悪い。」と
こぼしたらしい。
 付き合いの長い店長は、ボクが精一杯陳謝した事を信じてくれたが…
でも、それで良い。それで良いんだ。
 結局その客は、再び来店した際もボクとは口をきかなかった。




 朝は一瞬で過ぎ去る。
起きた。朝食を食った。身支度をした。出かけた。
…ただそれだけだ。あっという間に昼が来る。
 つまんねぇ。空虚感、怠惰…これは一体なんだ?
いっそ、恐怖の大王が降ってくれば良かったのに。それが衛星ロケットだろうが隕石だろうが、
何かが何処かに落ちてくれば楽しかっただろうに。
 退屈な時を紛らわせる手段は、やはり得てして退屈だ。
他人の不幸か自分の不幸に委ねるしかない。
 よし。今日は、思いきり不幸になってやろう。
地球上の誰もが思いもつかないくらいに、不幸になってやろう。
しかし自殺は苦痛だろうし知能を疑われるから絶対にしない。
反面、気持ち良さそうでもあるな。それが魔力って奴かも。
…ああ、退屈だ。いつのまにか昼も過ぎた。
今日も又、何の成果も無い残酷な時間が過ぎていくわ。




   ふひゃぁ〜!な〜んかなんだかだゃ〜!(暴発)
うきゅ〜!こーやってゴロゴロしてるのが一番の〜こ・う・ふ・く・ろ・ん(by椎名林檎)
 も〜なんか星連発★☆★って感じだ!超ハッPーだっ!
っちゅうか今、シアワセ絶頂ゆえに『独りしあわせ家族計画300万ゲット(仮)』って感じ♪
(意味不明)
 お、なんかカッコ(→()これね)が多いぞぅ?
しかァし、おおむね良し!ぐるっとまわってピースだっっっ!
みんなこんな感じなら良いのにね〜!ヤッピーなのにね〜!
なんかもったいなくす
らあるにゃぁ☆ぶみぶみ〜
 ん〜〜〜あいわかった!みんな聞いて〜!良いかな?言うよ〜っ?
ごっ・つ…好・き(はあと&投げキッス)




 眠る前、オレは言いようの無い殺意に駆られる事がある。
何とも言いようの無い、強大な殺意を覚えた事がある。
無作為に誰か一人をピックアップして、虐殺を行いたくなる事がある。
思いつく限りの残酷な手段で、発狂と嘔吐と厳然たる死を味あわせたくなる事がある。
 その時のオレの殺意は、絶対に誰よりも鮮烈だ。
みんな殺してやる。
善人も、罪人も、老婆も、幼児も、弱者も、強者も。
皆殺しにしてやる。命乞いすら聞かずに、切り開いてやる。
綺麗な床に、清潔なタイルの上に、全てをぶちまけてやる。
殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる…
全てを…オレ以外の全て…死ね!死んじまえ!のたうちまわれ!
絶叫の中で溺れて死ね!虫ケラみたいに轢死しちまえ!
汚物に塗れて、分子すら無くなっちまえ!




 『御○度』観た?大○渚って、監督としてスゴイかって言われると
首を横に振らざるを得ないね。
あんなの、金と人脈さえあればオレでも撮れるよ。絶対。
…なら撮ってみろって?答え、さっき言ったろ?
コネとカネっていう点では、大○渚はスゴイ監督だね。
 ブ○イアン・デ・○ルマってさぁ、結局何が撮りたかったわけ?全然伝わってこないんだよなぁ。
あの人の映画って、なんか『古本屋にあった週刊誌を読み返した』って感じしか
伝わってこないんだよなぁ〜…。
それってさぁ、ケレン味に塗れてるってことじゃない?
って事はだよ、一般的って事じゃん。ダメでしょ。
 認める監督なんていやしないよ。誰であろうと、詰まるところは。
自分以外の誰が撮ろうと、ね。




 あのね?
ボクねぇ…
みんなが怖いの。
 目を開けるのが怖いの。事実を把握するのが怖いの。
現実を受け入れるのが怖いの。妄想に浸る時間が怖いの。
尖った物が怖いの。棒状の物が怖いの。機械が怖いの。
ガラスが怖いの。添加物が怖いの。薬が怖いの。
 パキパキと鳴る冬の朝が怖いの。
あの真っ赤な夕日が怖いの。
止められない夜のとばりが怖いの。
 蝉の声が怖いの。鈴虫の声が怖いの。節足動物が怖いの。
白い排気ガスが怖いの。黒いタールが怖いの。
海が怖いの。山も怖いの。家の中も怖いの。
動物が怖いの。鳥が怖いの。人が怖いの。子供が怖いの。
大きい背中が怖いの。長い髪が怖いの。
 ボクね…
ボクが怖いの。
 みんなにね…
嫌われるのが怖いの。




 そして




 「いらっしゃいませー!」
 そしてボクは、いつものように店に立っていた。
今朝までの放心も、
傷心も、、
怠惰も、
ある種の開き直りも、
殺意も、
慢心も、
自己嫌悪すらをも、忘却して。
「は〜いどうも〜」
 30代半ばの女性客が、新作ビデオのパッケージをにこやかに差し出したのを受け、
ボクは精一杯の業務用スマイルで対応する。
感じの良い客だ。こういった小さな温もりで、とても清清しい気持ちになれる。
「少々お待ち下さい〜!」
 またこうやって、ボクは日々を過ごしていくのだろう。
いつもと変わらず、いつもの通りのサイクルで。
 それで良い。…きっとボクは、それで良いんだ。

 いつものようにパッケージのナンバーを見て、それに準じたビデオを出して…


 気が付くと、
ボクはペン立てにあったカッターを
笑顔が美しい彼女の、柔らかい腹に、深深と突き立てていた。




  (終わり)











d-plan

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Dice/1383/

2000.6.22
 


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