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▼ 第5回投稿作品 ▼



 
sakazakiさんこんちは。
懲りずに投稿します。アップが大変だったり、気が進まなかった
ら、 遠慮なく没にしてください。

今回は、 {青春の愛と苦悩、}
      {少年が大人になるために、
          乗り越えなければいけない現実とは}
と言うテーマで書いてみました。
これが純文学なのか?単なるギャグ小説なのか?は
読者の判断にお任せします。
それではよろしく、
haruo

 

学校の怪談シリーズ その2
  「階段の怪談」
(私は、これ以上に恐ろしい話を聞いた事はない。)

プロローグ

 あなたは、学校の階段でなにか不思議な事にで
あった事はありませんか?広いコンクリートの階段を
登りながら、ふと上を見るとそこには学校ではない
別の風景が有ったとか・・


  義樹が、やっと吉沢第一高校にたどり着いた時には、
もう3時限めは終わっていた、お昼までにたどり着け
たのはいいが、少しでも授業に出ないとこの苦労は報
われない。その思いが義樹を急がせた。
 階段を小走りに上りながら、朝からの事を考えていた。
 ふと頭を上げるとそこには学校ではない別の風景が
広がっていた・・、
 プラットホームのアナウンスの音・・義樹が乗る電
車が入ってくるのを告げていた、反射的に義樹は階段
を駆け上がった、いつもの様に電車に走り込んだ義樹
だったが、今日は何かがいつもと違っていた、

 だいたい真夏に昨日の残り物を食べたのがいけなかっ
た、いつもの様に決まった電車に乗ったのに、一駅も
過ぎない内にお腹がグルグル言い出した、駅まで走っ
たのも良くなかったのだろうう、若さに任せて夜更か
しの連続、クーラーつけっぱなし、どれをとっても腹
痛の原因には事欠かない。
 しかし、その時の義樹にとっては、原因なんてどう
でもいい事だった、とにかく出たがっているお腹の中
のものを何とかしなくてはいけない、
 次の駅までの時間が途方も無く長く感じられた。
 やっと駅に着いて、目的の場所に早足で進んだ、もち
ろん走り出したい思いだが、義樹にはまだ少しばかり
のプライドが残っていた、人間の究極には多少の幅が
有るのもで、もうだめだと思っていても、まだしばら
くは辛抱できるものである。
 しかし、このような経験の無い義樹には、朝の駅の
トイレ事情は分かっていなかった、通勤通学時の駅の
トイレはそんなに甘いものではなかった。
 特に男性用トイレには個室が少なく、おまけに「常
連」と呼ばれる人達がいるのだ、ストレスの多い現代
人は、体に偏重をきたす、その象徴的なものが神経性
下痢である。
 義樹はドアの前で列を作っている人達を見て呆然と
した。「常連」さんの中に義樹の入り込む隙間はなかっ
た。これは、砂漠の蜃気楼の様なもので、そこまで行
けば水に有りつける、と思っていた人が、行けども行
けども泉にたどりつけない、と言った状況である。最
初から、何らかの希望が無ければそのつもりで精神を
コントロールし、防御できるのだが、そこに行けば問
題は解決すると思い込んでいた義樹に、目の前に現れ
た現実はなんの防御も無くストレートに義樹の精神を
一撃した。
 しかし、義樹もここで倒れ込むわけにはいかない、必
死の思いで、心を保った。「ここは、あまりにもトイレ
の数が少ない、駅が小さいからだ。大きなターミナル
駅まで行こう、そうすれば、たくさんトイレが有るか
ら・・」
 人間は現実を自分の都合のよい方に解釈する傾向があ
る、窮地にたった時には特にそうである。義樹もその
時、決して冷静ではなかった。それに、経験のある方
はお分かりかと思うが、このような腹痛は決して一直
線に襲ってはこない、静かに押し寄せる波の様に、押
してはひくのである、この引き潮の時に錯覚するので
ある。
 義樹は改めて電車に乗り込んだ、少し苦痛が収まっ
てきた、「なーんだ、少し我慢すれば、よかったんだ。
」と思ってしまった、すぐに電車はターミナル駅に着
いた、しかし、悪魔の様な腹痛はこの時静かに次のチ
ャンスを待っていた。
 義樹はとりあえず、念の為にトイレに行っておく事に
した、しかし、トイレは前の途中下車した駅と状況は
変らなかった、当然の事では有るが、トイレの多い分
使用する人間も多いのである。
 「まあいいか、痛みも収まっているし、このまま学校
まで行ってしまおう。」
 人間、わかっているようでわかっていないのが自分
の体である。義樹はターミナル駅から特急に乗ると言
う大きな判断ミスを犯してしまった。
 いわゆる「常連」さんは決して特急には乗らない、
この種の腹痛はいつでも再び襲ってくる事を知ってい
るからだ。

特急

 予想どうり、特急が発車してまもなく、義樹のお腹も
特急になってしまった。苦痛に耐える為ドアにもたれ
かかり、カバンをお腹にぎゅっと押し当てて、何とか
耐えた、しかし、この我慢がいつまで続くのか何の保
証も無かった。車内のクーラーが恨めしかった、特急
は特によく効くのだった。
義樹は床にへたり込みそうになるのを必死でこらえた、
しかし既にボクシングで言うロープダウン状態である、
クーラーはガンガン効いているのに、額からは脂汗が
にじみ出る。
 「そうだ、こんな時は、別の事を考えるのだ!神経
をお腹から逸らすのだ……。」
・・・・・「うううーーんん。」
 他の事は何も考え付かなかった。
 それなら
 「そうだ、この苦痛を楽しもう……。」
 「楽しいわけないだろ!!」
「何だこの電車は特急のくせになんでこんなに遅いん
だ!!」このようなときには、時間の経過が極端に遅
くなる。しかしそれは気のせいだけではなかった、電
 車は徐々に減速し止まりそうになった。
 車内アナウンスが流れた、
 「前方の信号が赤の為しばらく停車します。」
  ・・・・
 「ばかやろう!!!!信号なんて無視して早くはし
れ!!!」義樹が心の中でいくら叫んでも誰にも聞こ
えなかった、たとえ声に出して叫んでも、電車は進ま
なかっただろう。義樹はもうとっくに限界を超えてい
た、しかし、人間は限界を超えた時にもう一つの能力
が働く、「超限界」とでも言うのか、別の限界を自分で
作ってしまうのである。
 ついに義樹の乗った特急電車は、停車してしまった。
この苦しみは表現の仕様が無い。とにかく、必死で義
樹は持ちこたえた、自分で思ってもこれからの自分の
人生の中で他人に自慢できる頑張りだった。
 ただ、他人には話したくはなかった。

  駅前

 「特急が駅に着くと、今度は迷わず走り出そう」と思
っていた、しかし、思いと現実は常に背中あわせであ
る。義樹のお腹の状態はもう既に走れる状態ではなか
った、今に「も・れ・そ・う・・」なのだ。
 走ったりしたらどのような惨事が、通勤の人で込み
合うプラットホームに繰り広げられるか、考えただけ
でも恐ろしい。義樹は出来るだけお腹を刺激しない様
に、ぐっと押さえて、ただ静かに歩んだ、人がぶつか
っても、「み・が・で・そ・う・・」な状態である。

 「無情」と言う言葉が有る、「情が無い」現実はその
言葉がぴったりする、世間はその人の事情に合わせて
は動いてくれない、自分の思うとうりになったらそれ
は奇跡であろうが、めったに起こらないのが奇跡でも
ある。
 この駅のトイレも今までの駅と同じ状態であった。絶
望に出会った時、人は過去を怨む、「どうして、最初の
駅で順番を待たなかったのだ。そうしていればもうと
っくにこのような苦しみと別れられたのに・・」しか
し、過去は過去でしかない、いかに近くの過去であっ
てもそこに行く事もそれを変える事も人間には出来な
い。
 それが、自然の法則だ。
 こんな時に明暗を分けるのは名案だった。いや正確に
言うと「名案の様に思えた考え。」だった。
義樹は今にも崩れ落ちそうな精神状態の中で考えた、
「そ、そうだ!駅の外の何処かで、トイレを借りよう
こんな単純な考えがその時には名案に思えたのだ。
 丹下左膳が後ろから袈裟懸けに、切りつけられて
傷口を押さえて敵に立ち向かうような形相で(どんなん
や?)義樹は改札を出た。
 駅前にはパチンコ屋があった、しかし、開くのはま
だ早かった、通学時間帯に開いている商店はわずかで
あった。それは承知していたが、義樹が名案だと思っ
たのは、商店街を抜けるとそこにはガソリンスタンド
がある事を思い出していたからである。GSなら、間
違いなく目的が果たせる。義樹には自信があった。

運命の女神   

しかし、運命の女神と言う意地悪な人がいた。
 それが女神だったから、いけなかったのだ。
 義樹には幼なじみの女の子がいた、「ゆきちゃん」と
呼んでいる、「中山 雪 」である、雪は隣り町の女子
校に通っている、最近とっても大人っぽくなって、信
じられないほど可愛くなっていた。義樹の思いの中に
いつも彼女がいた、いつでも話し掛けられる仲良しな
のに、なかなかチャンスがない、そんな関係だった、
その「ゆきちゃん」が通う学校が、この日創立記念
日で、その休みに、彼女がアルバイトをしていた事を
義樹が知る事は不可能だった。                

 通学電車の中で、急な腹痛に襲われた義樹は、我慢の
末にやっと駅前のGS(ガソリンスタンド)にたどり
ついた。朝の忙しい時間帯にガソリンを入れようとす
る車が1秒でも時間を急かせるようにスタンドに集ま
っていた。
 だいたいGSのトイレは、事務所の外にあって客が
自由に入れるものと、事務所の中にあるものとの二種
類に別れる、義樹がたどりついた駅前のGSは、事務
所の中にトイレが有った。
 「すみません、トイレ貸してください!」
とスタンドのお兄さんに声を掛けた、
 「ああいいよ、でも貸すだけだから、持って帰るな
 よ!!」
 そんなギャグに付き合っている余裕は義樹になかった。
 「ありがとう!」
と言って、早歩きで事務所に向かった。
 入り口は透明の大きなガラスになっていて中が全部
見える、そこで義樹の足は止まってしまった。
 もちろんガラスの向こうに彼女がいたからだ、
 「え!!どうして!!ゆきちゃんが??!!」
 声にならない言葉が義樹の心の中に響いた。
 いったいどうすれば良いんだ、もう選択の余地がない
のはわかっていた、それにしても残酷じゃないか、も
し、ゆきちゃんが単なる幼なじみだったら、隣りのゆ
きちゃんだったらどんなに良かっただろうか。そうで
なければ、義樹と雪の関係がもっと発展していて、義
樹が、雪に気持ちを打ち明けていて、雪とデートでも
出来る関係になっていたら、なんのためらいもなく義
樹は「あ・・ゆきちゃんバイトしてたの?ちょっとト
イレ借りるよ。」で済んでいたであろう。
 しかし、義樹にとって雪はそのどちらでもない。
幼なじみが、あこがれとほのかな恋に変ろうとする
微妙な時期でった。義樹の心の中で雪はすでに恋人で
あり、大切な人であった、しかし、雪にその思いを伝
えていなかった、雪が自分を「となりのよしくん」と
しか思っていないのか、「同年代の男性」と想ってくれ
ているのかさえわかっていなかった。
 瞬間どうすれば良いのかわからなくなった、実に長い
瞬間だった、でも自分の体は待ってくれない、迷う余
裕を与えてくれない、ゆきちゃんの前を通ってトイレ
に駆け込むか、この場で座り込んで…か?そんな事は
選択の中にも入らない、
 義樹はなるべく雪から視線をはずして、事務所の入り
口から、一直線にトイレに向かった。
 「よしくん??!!」
朝のガソリンスタンドに、すこし青ざめた顔をした学
生服の男が入ってきたのだ、雪が気が付かないわけが
ない、
 「よしくん!どうして?」
 「ああ・・ゆきちゃん・・ちょっと」
 二人の会話はこれだけだった。
 義樹はトイレの中で自分のお腹の中に入っていたもの
すべてをぶちまけた、胃も腸も内臓の半分ぐらいが一
緒に出てしまった気がする。全部出てしまった後、放
心状態で、義樹はしばらく座っていた、「ゆきちゃんに
なんて言おうか?」などと言う思いはかけらもなかっ
た。
 すこしのあいだ座って、お腹と自分の精神が平常に
戻るのを待っていた。股の下に見える黄色いものが妙
にになつかしく感じて、このまま流してしまうのがも
ったいない気もした。それは、力をつくして戦ったも
の同士が闘を終えた時に感じる友情の様なものであっ
た、そこには恋などと言う感情は入れなかった。
 身繕いをしてドアを押し、外に出てきた義樹は、一つ
の苦難を乗り越えた男の輝きがあった。その時義樹は
少年から青年へと変ったのかもしれない。
 「ゆきちゃん、ここでバイトしてたの?電車の中で急
 にお腹が痛くなって、ここに駆け込んだんだ。」
 「そうだったの・・」
 「最近はあんまり話しもしてないね?バイトの休みの
 日、遊びに行かない?」
 「ええ、いいわよ、電話するね、となりだけど。」
スタンドの外にもう朝のあわただしさはなかった。
夏の太陽が、妙に優しかった。

 義樹が、やっと吉沢第一高校にたどり着いた時には、
もう3時限めは終わっていた、お昼までにたどり着け
たのはいいが、少しでも授業に出ないとこの苦労は報
われない。その思いが義樹を急がせた。
階段を小走りに上りながら、朝からの事を考えていた。
ふと頭を上げるとそこには学校ではない別の風景が
広がっていた・・、
 プラットホームのアナウンスの音・・義樹が乗る電
車が入ってくるのを告げていた、反射的に義樹は階段
を駆け上がった、いつもの様に電車に走り込んだ義樹
だったが、今日は何かがいつもと違っていた、

だいたい真夏に昨日の残り物を食べたのがいけなかっ
た、いつもの様に決まった…
      





            1999.9.19






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